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てんかん患者が糖質制限を行う理由と注意すべきポイント

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てんかん患者が糖質制限を行う理由と注意すべきポイント
目次

てんかんで糖質制限が推奨される理由

てんかん治療において糖質制限が推奨される最大の理由は、脳のエネルギー代謝システムを変化させることで神経細胞の興奮を抑制できる点にあります。通常、脳はグルコース(糖質)を主要なエネルギー源として利用していますが、糖質を制限することでケトン体という代替エネルギー源の産生が促進されるのです。

このように言うと、なぜエネルギー源を変えるだけで発作が抑制されるのか疑問に思われるかもしれません。実際、ケトン体は単なるエネルギー源ではなく、神経細胞の電気的活動を安定化させる特別な働きを持っています。

また、糖質制限療法は古代ヒポクラテス時代から断食療法として実践されており、現代的なケトン食療法は1921年にアメリカのワイルダー医師によって体系化された歴史ある治療法でもあります。1997年の映画「First Do No Harm」により再注目され、現代の医学研究により、その作用機序が科学的に解明され、多くの臨床データでその効果が実証されているのです。

ケトン食がてんかんになぜ効果的なのか

ケトン食療法の効果的なメカニズムを理解するためには、まず脳のエネルギー代謝について知る必要があります。ケトン食は脂質を全体の70~80%、糖質を10%以下に制限する食事法で、この比率により肝臓でケトン体が効率的に産生されます。

ケトン体が脳に到達すると、以下のような多面的な効果を発揮します:

  • ATP感受性カリウムチャネルの活性化による神経細胞の安定化
  • 興奮性神経伝達物質グルタミン酸の放出抑制
  • 抑制性神経伝達物質GABAの合成促進
  • ミトコンドリア機能の改善による神経保護作用
  • 酸化ストレスの軽減
  • 腸内細菌叢の変化による間接的な神経調節作用

これらの作用が相乗的に働くことで、発作の発生頻度や強度が大幅に減少するのです。重要な点として、ケトン食有効例の約90%では開始1か月以内に何らかの効果を認めることが確認されており、3か月を超えて効果の出る患者さんはいないという明確な効果発現時期があります。

効果の種類作用機序期待される結果効果発現時期
神経興奮抑制KATPチャネル活性化発作頻度の減少1-4週間
神経伝達調節グルタミン酸抑制・GABA促進発作強度の軽減2-8週間
神経保護ミトコンドリア機能改善長期的な脳機能維持3か月以上
抗酸化作用活性酸素の除去神経細胞の損傷防止継続的
腸内環境改善アッカーマンシア・パラバクテロイデス増加GABA産生促進2-4週間

特に注目すべきは、最新の研究により明らかになった腸内細菌叢への影響です。ケトン食により腸内のアッカーマンシア(AK)とパラバクテロイデス(PB)が著明に上昇し、これらの細菌がガンマグルタミン酸化されたアミノ酸を減少させることで、海馬の神経伝達因子でGABAがグルタミン酸より高まることが判明しています。

脳のエネルギー代謝変化による発作抑制

脳のエネルギー代謝変化による発作抑制

脳のエネルギー代謝が糖質からケトン体に切り替わることで起こる変化は、まさに発作抑制の核心部分です。通常の状態では、脳はグルコースを解糖系で代謝してATPを産生しますが、この過程で細胞内のエネルギー状態が不安定になりやすいのです。

一方で、ケトン体を利用した代謝では、ミトコンドリアで直接的にATPが産生されるため、より安定したエネルギー供給が可能になります。この安定性が神経細胞の電気的活動を正常化し、異常な興奮状態を防ぐのです。

「ケトン体代謝は、脳にとってより効率的で安定したエネルギー供給システムなのです」

さらに、ケトン体代謝では副産物として生成されるアセチルCoAが、神経伝達物質の合成にも関与します。特にGABA(γ-アミノ酪酸)の合成が促進されることで、脳全体の興奮性が適切にコントロールされるようになります。

ケトン食により解糖系が抑制されると細胞膜近くでのATP産生が減少し、K-ATPチャネルが開口することで過分極になり、細胞膜が安定化するという神経細胞膜の安定化メカニズムも重要な作用の一つです。

神経伝達物質への影響とメカニズム

ケトン食療法が神経伝達物質に与える影響は、てんかん治療において極めて重要な要素です。主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸と、抑制性神経伝達物質であるGABAのバランスが、発作の発生に直接関わっているからです。

ケトン体は小胞型グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)に直接作用し、グルタミン酸のシナプス小胞への取り込みを阻害します。これにより、興奮性シナプスでのグルタミン酸放出量が減少し、神経の過剰な興奮が抑制されるのです。

同時に、ケトン体代謝の過程で生成されるアセチルCoAは、グルタミン酸デカルボキシラーゼの補因子として機能し、GABAの合成を促進します。このように、興奮と抑制の両方向から神経活動を調節することで、発作の発生を効果的に防ぐことができるのです。

さらに、ケトン食中のデカン酸がAMPA型グルタミン酸受容体に作用して、てんかん発作を起こす興奮性伝達を抑制するという直接的な作用機序も報告されています。

  • グルタミン酸系への影響:放出量の減少、AMPA受容体の阻害
  • GABA系への影響:合成促進、抑制系回路の賦活
  • ドーパミン系への影響:安定化作用
  • セロトニン系への影響:気分安定化
  • 腸脳相関:腸内細菌由来のGABA産生促進

GLUT1異常症における特別な位置づけ

GLUT1異常症(グルコーストランスポーター1欠損症)は、ケトン食療法が特に重要な役割を果たす疾患です。GLUT1は脳内にブドウ糖を取り込むために必要な蛋白質で、これが上手く働かないと脳にブドウ糖が取り込めず、エネルギー不足になってしまいます。

GLUT1異常症では脳のエネルギー不足から、難治性の多彩なてんかん発作、小頭症、発達遅滞、眼球運動異常、失調、ジストニアなどをきたします。しかし、ケトン体はGLUT1とは関係なく脳内に取り込まれてエネルギー源となるため、ケトン食療法を行うことで脳のエネルギー不足が解消され、症状が改善するのです。

重要な点として、GLUT1異常症においてはケトン食療法が第一選択となっており、通常のケトン食より低いケトン比でも症状が改善することが多いという特徴があります。また、成人期に入っても有効な可能性が高く、長期間継続する必要があることが確認されています。

抗てんかん薬との併用効果と相乗作用

ケトン食療法は単独で実施される場合もありますが、多くのケースでは抗てんかん薬との併用が行われます。この併用により、薬物療法だけでは達成できない発作抑制効果が期待できるのです…!

実際の臨床データでは、抗てんかん薬との併用により、発作がさらに減少した患者が多く、抗てんかん薬の併用は有用であったという報告があります。また、適切に管理された併用療法では、薬剤の減量が可能になるケースも多く報告されています。

ただし、併用時には薬物の血中濃度や代謝に影響を与える可能性があるため、慎重な監視が必要です。例えば、フェニトインやカルバマゼピンなどの薬剤は、ケトン食により代謝速度が変化することが報告されています。

薬剤名ケトン食との相互作用監視項目調整の必要性併用効果
フェニトイン代謝速度変化血中濃度相乗効果あり
カルバマゼピン血中濃度変動肝機能・血中濃度減量可能
バルプロ酸肝機能への影響肝機能検査慎重な監視要
ラモトリギン代謝経路変化血中濃度・皮疹効果増強
レベチラセタム相互作用少腎機能併用安全

長期間フォローした症例では、思春期に入ると、同じケトン食療法の強度でも、ケトン体は上昇しにくくなるが、てんかん発作も減少する傾向があることが観察されており、年齢による効果の変化も考慮する必要があります。

栄養不足を防ぐバランス調整の重要性

ケトン食療法を安全に継続するためには、栄養バランスの適切な管理が不可欠です。糖質を厳しく制限する一方で、必要な栄養素をしっかりと摂取する必要があります。特に注意すべき栄養素は以下の通りです。

  • ビタミンD:骨の健康維持、推奨摂取量800IU/日
  • カルシウム:骨形成と神経伝達、推奨摂取量1200mg/日
  • マグネシウム:神経機能調節、推奨摂取量400mg/日
  • 食物繊維:腸内環境改善、推奨摂取量25g/日
  • ビタミンB群:エネルギー代謝サポート
  • オメガ3脂肪酸:抗炎症作用
  • セレン:抗酸化作用
  • 亜鉛:免疫機能維持

これらの栄養素が不足すると、長期的な健康問題を引き起こす可能性があります。例えば、カルシウムやビタミンDの不足は骨密度の低下を招き、マグネシウム不足は神経機能に悪影響を与える可能性があります。

そのため、栄養士や医師と連携しながら、個々の患者さんに適した栄養補給計画を立てることが重要です。必要に応じてサプリメントの使用も検討し、定期的な血液検査で栄養状態をモニタリングしていきます。

また、口腔健康状態への影響も考慮する必要があります。砂糖の摂取が大幅に減少する一方で、食事内容の偏りから口腔ケアの重要性が高まるため、定期的な歯科受診と適切な口腔ケアが推奨されます。

てんかん糖質制限の実践と注意点

ここからは、実際にてんかん患者さんが糖質制限を実践する際の具体的な方法と注意すべきポイントについて詳しく解説していきます。理論的な理解も大切ですが、日常生活での実践方法を知ることで、より効果的で安全な治療が可能になります。

実践にあたっては、医療機関での指導のもと、段階的に導入することが重要です。原則として1か月間の入院で導入し、副作用が生じないか十分な観察を行うことが推奨されています。急激な食事変更は体調不良を引き起こす可能性があるため、慎重なアプローチが求められます。

食べてはいけないもの一覧と代替食品

食べてはいけないもの一覧と代替食品

ケトン食療法では、糖質を含む食品を厳しく制限する必要があります。お米、パン、麺類など糖質の多い食材はできるだけ使わないようにし、砂糖の代わりに人工甘味料を使用します。以下に、避けるべき食品と推奨される代替食品をまとめました。

食品カテゴリ避けるべき食品推奨代替食品糖質量(100g当たり)注意点
主食白米、パン、麺類、芋類カリフラワーライス、しらたき0.1~2.0g食感を工夫する
野菜じゃがいも、にんじん、かぼちゃ、とうもろこしブロッコリー、ほうれん草、アボカド1.0~5.0g根菜類は要注意
果物バナナ、ぶどう、りんご、柿ベリー類(少量)、レモン5.0~10.0g果糖含有量確認
調味料砂糖、ケチャップ、ソース、みりん塩、胡椒、ハーブ、スパイス0~1.0g隠れ糖質に注意
飲み物ジュース、スポーツドリンク、牛乳水、無糖茶、ブラックコーヒー0g人工甘味料使用可
加工食品菓子類、加工肉(糖質添加品)ナッツ類、チーズ、無添加肉0~3.0g成分表示要確認

特に注意が必要なのは、一見糖質が少なそうに見える食品にも隠れた糖質が含まれていることです。例えば、加工肉には糖質が添加されている場合があり、調味料にも予想以上の糖質が含まれていることがあります。

代替食品を上手に活用することで、食事の満足度を保ちながら糖質制限を継続できます。例えば、カリフラワーを細かく刻んでご飯の代わりにしたり、しらたきを麺の代用として使うなど、工夫次第で美味しい食事を楽しめます。

食事中の脂質/(糖質+タンパク質)の比率(ケトン指数)を3~4:1にすることが基本となり、医師を通じて入手できる特殊ミルク(ケトンフォーミュラ)はケトン指数が2.9となっており、いろいろな料理にも利用できます。

修正アトキンス食療法の詳細

修正アトキンス食療法は、従来のケトン食療法よりも実践しやすい食事療法として注目されています。アメリカのアトキンス氏が提唱した低糖質食に修正を加えた方法で、ケトン食とほぼ同等のてんかん発作に対する効果を期待できます。

修正アトキンス食療法では、糖質を乳幼児では10g/日、成人では15~20g/日まで制限する以外に、タンパク質やカロリー制限を必要としません。一方脂質に関しては、できるだけ多く摂ることが推奨されます。

食事内容の管理の容易さやメニューの内容から、特に成人の方にはケトン食療法より実施しやすく、学童期以降ではケトン食よりも継続しやすいという利点があります。

療法の種類糖質制限量脂質比率タンパク質制限適用年齢継続しやすさ
古典的ケトン食10-15g/日80-90%あり全年齢★★
修正アトキンス食乳幼児10g、成人15-20g/日65-75%なし全年齢★★★★
低グリセミック指数食40-60g/日40-50%なし成人中心★★★★★
MCT食20-30g/日50-60%(MCT中心)軽度制限全年齢★★★

また最近では、摂取する糖質を、食品に含まれる糖質の吸収されやすさを示すグリセミック指数の低い糖質に限定して、修正アトキンス食よりさらに糖質の摂取量を緩和し40~60gまでは可とする低グリセミック指数食も提案されています。

チョコレート摂取時のリスクと対処法

チョコレートは多くの方に愛される食品ですが、てんかん患者さんにとっては特別な注意が必要です。一般的なミルクチョコレートには大量の糖質が含まれており、ケトン食療法の効果を損なう可能性があります。

しかし、完全に諦める必要はありません。カカオ含有量85%以上のダークチョコレートであれば、少量の摂取が可能な場合もあります。ただし、以下の点に注意が必要です:

  • 摂取量は1日10g以下に制限
  • カフェイン含有量を考慮(発作誘発の可能性)
  • 摂取タイミングを医師と相談
  • 血中ケトン体濃度への影響をモニタリング
  • 他の糖質摂取量との調整
  • 個人の発作パターンとの関連性を記録

「チョコレートを楽しみたい気持ちは理解できますが、治療効果を最優先に考えることが大切です」

もしチョコレートを摂取した場合は、その後の発作の有無や体調変化を詳細に記録し、医療チームと情報を共有することが重要です。個人差があるため、一人ひとりに適した対応策を見つけていく必要があります。

代替として、カカオパウダーを使用した低糖質スイーツの作成や、人工甘味料を使用したチョコレート風味の食品を活用することも可能です。

ケトン食メニューの具体的な組み立て方

ケトン食メニューの具体的な組み立て方

効果的なケトン食メニューを組み立てるためには、マクロ栄養素の比率を正確に計算する必要があります。基本的な比率は脂質70~80%、タンパク質15~25%、糖質5~10%ですが、個人の体重や活動量に応じて調整が必要です。

ケトン指数の計算式は以下の通りです:

ケトン指数 = 脂質(g)÷(糖質(g)+ タンパク質(g))

例えば理想体重を50kg、摂取エネルギー量を30kcal/kg/日と設定した場合、ケトン比2:1を達成するための糖質摂取量は10g/日となります。

以下に、1日のメニュー例を示します:

食事メニュー例脂質(g)タンパク質(g)糖質(g)ケトン指数
朝食アボカド入りスクランブルエッグ、バター炒めほうれん草351841.6
昼食サーモンのグリル、オリーブオイルドレッシングサラダ402561.3
夕食牛肉ステーキ、ブロッコリーのバター炒め383051.1
間食ナッツ類、チーズ、ケトンフォーミュラ201031.5
合計13383181.3

このメニューでは、総カロリーの約75%を脂質から、20%をタンパク質から、5%を糖質から摂取しています。重要なのは、毎食でこの比率を維持することではなく、1日全体でバランスを取ることです。

また、水分摂取も重要な要素です。ケトン食療法中は脱水になりやすいため、1日2リットル以上の水分摂取を心がけましょう。電解質のバランスも重要で、適切な塩分摂取も必要です。

ケトン食レシピの作成ポイントと工夫

長期間ケトン食を継続するためには、飽きのこないレシピの工夫が欠かせません。同じ食材でも調理法や味付けを変えることで、バリエーション豊かな食事を楽しむことができます。

レシピ作成の基本ポイントは以下の通りです:

  • 脂質の種類を変える:オリーブオイル、ココナッツオイル、バター、ナッツオイル、MCTオイルなど
  • 香辛料を活用:ガーリック、ジンジャー、各種ハーブで風味をつける
  • 食感にこだわる:蒸す、焼く、炒める、煮るなど調理法を変える
  • 色彩を意識:緑黄色野菜を使って見た目を美しくする
  • 温度差を楽しむ:温かい料理と冷たい料理を組み合わせる
  • ケトンフォーミュラの活用:様々な料理に混ぜて栄養価を高める

例えば、鶏肉を使った料理でも、ハーブ焼き、カレー風味炒め、クリーム煮など、様々なバリエーションが可能です。野菜も単調になりがちですが、グリル、ソテー、蒸し物など調理法を変えることで飽きずに続けられます。

また、作り置きできるメニューを開発することも重要です。忙しい日でも適切な食事を摂れるよう、週末にまとめて調理しておくと便利です。冷凍保存可能なケトン食メニューのレパートリーを増やしていきましょう。

特殊な調理器具として、フードプロセッサーやブレンダーを活用することで、カリフラワーライスの作成や、ナッツベースのソース作りが簡単になります。

特定のてんかん症候群への効果

ケトン食療法は、特定のてんかん症候群に対して特に高い効果を示すことが知られています。これらの症候群では、従来の抗てんかん薬では十分な効果が得られない場合が多く、ケトン食療法が重要な治療選択肢となります。

  • Dravet症候群:乳児期発症の重篤なてんかん症候群で、ケトン食により発作頻度の著明な減少が期待できる
  • West症候群(点頭てんかん):乳児期に発症し、特徴的なスパズム発作を示す症候群で、早期導入が推奨される
  • ミオクロニー脱力発作てんかん:突然の脱力発作が特徴的で、ケトン食により劇的な改善を示すケースが多い
  • Lennox-Gastaut症候群:多様な発作型を示す難治性てんかんで、QOL改善に寄与する
  • 結節性硬化症に伴うてんかん:mTOR阻害剤との併用により相乗効果が期待される

これらの症候群では、小児の難治性てんかんにおいて糖質量10g/日の遵守による発作軽減効果が臨床的に確認されており、早期からの積極的な導入が検討されます。

長期継続における副作用管理方法

長期継続における副作用管理方法

ケトン食療法を長期間継続する際には、様々な副作用が現れる可能性があります。これらを適切に管理することで、安全に治療を続けることができます。主な副作用とその対策について詳しく解説します。

副作用発生時期症状対策モニタリング頻度
低血糖導入初期めまい、脱力感、発汗段階的導入、血糖モニタリング導入時毎日
便秘導入初期~排便困難、腹部膨満水分・食物繊維増加、緩下剤週1回
嘔吐・吐き気導入初期食欲不振、嘔吐少量頻回摂取、制吐剤導入時毎日
骨密度低下長期(2年以上)骨折リスク増加カルシウム・ビタミンD補給年1回DEXA
腎結石長期腰痛、血尿十分な水分摂取、クエン酸補給半年毎エコー
成長障害小児の長期使用身長・体重増加不良栄養バランス調整、成長ホルモン検査月1回測定
脂質異常症長期コレステロール上昇脂質の種類調整、定期検査3か月毎

これらの副作用を予防・管理するためには、定期的な医学的モニタリングが不可欠です。血液検査、尿検査、骨密度測定などを定期的に実施し、早期発見・早期対応を心がけます。

特に重要なのは、副作用の初期症状を見逃さないことです。患者さんやご家族には、注意すべき症状について詳しく説明し、異常を感じた場合はすぐに医療機関に相談するよう指導します。

また、ケトン食を実施すべきではない稀な病気があるため、導入前の詳細な検査と医師による適応判定が必須となります。

治療継続期間と中止のタイミング

ケトン食療法の継続期間については、効果があった例では2、3年を目安に治療の終了を検討することが一般的です。継続期間の検討にあたっては、難治性てんかん患者さんではケトン食を3か月継続すると、摂取中止後も発作軽減効果がみられる患者さんもおられることが確認されています。

重要なデータとして、発作消失した例で、2年間の治療後、中止した場合の再発率は20%という報告があります。これは、適切なタイミングでの中止により、多くの患者さんで効果が持続することを示しています。

中止の判断基準:

  • 発作の完全消失または90%以上の減少が2年間継続
  • 脳波所見の改善
  • 認知機能の安定化または改善
  • 副作用の出現や悪化
  • 患者・家族の治療継続意思
  • 社会復帰の状況

中止は段階的に行い、急激な食事変更は避けることが重要です。通常、数週間から数か月かけて徐々に糖質量を増加させ、正常食に移行していきます。

医療機関との連携体制構築の必要性

ケトン食療法を安全かつ効果的に実施するためには、医療機関との密接な連携が不可欠です。単独で実施するのではなく、医師、栄養士、薬剤師、看護師などの多職種チームでサポートすることが重要です。

理想的な連携体制には以下の要素が含まれます:

  • 神経内科医・小児神経科医:発作の評価、薬物調整、全体的な治療方針決定
  • 管理栄養士:食事プランの作成、栄養バランスの管理、レシピ指導
  • 薬剤師:薬物相互作用の監視、服薬指導、ケトンフォーミュラの管理
  • 看護師:日常的なケア、患者・家族教育、副作用モニタリング
  • 臨床検査技師:血液・尿検査の実施と結果解釈
  • 理学療法士:運動療法の指導、発達支援
  • 心理士:心理的サポート、認知機能評価

定期的な受診スケジュールも重要です。導入初期は週1回、安定期は月1回程度の受診が推奨されます。各受診では、発作の記録、体重測定、血液検査、栄養状態の評価、ケトン体測定などを行います。

また、緊急時の対応体制も整備しておく必要があります。発作の増悪や重篤な副作用が現れた場合の連絡先、対応手順を明確にし、患者さんやご家族に周知しておきます。

さらに、遠隔モニタリングシステムの活用も検討されています。スマートフォンアプリを使った発作記録、食事記録、体重管理、ケトン体測定結果の入力などにより、医療チームがリアルタイムで患者さんの状態を把握できるようになっています。

エビデンスレベルと今後の課題

ケトン食療法の効果については多くの研究報告がありますが、エビデンスの確実性は低い~非常に低いとされているのが現状です。これは、ランダム化比較試験の実施が困難であることや、長期的な追跡調査の不足などが原因となっています。

しかし、臨床現場での実績は豊富で、特に薬剤抵抗性てんかんに対する有効な治療選択肢として確立されています。今後の課題として以下の点が挙げられます:

  • より質の高い臨床研究の実施
  • 個別化医療の実現(遺伝子解析による最適化)
  • 新しいケトン体補充法の開発
  • 腸内細菌叢を標的とした治療法の開発
  • 長期安全性データの蓄積
  • 社会復帰支援システムの構築

また、てんかん以外の疾患への応用も期待されており、自閉症スペクトラム障害(ASD)、アルツハイマー病、がん治療などでの研究が進められています。

家族支援と社会復帰への取り組み

家族支援と社会復帰への取り組み

ケトン食療法は患者さん本人だけでなく、ご家族にとっても大きな負担となる場合があります。特に小児患者の場合、家族全体のライフスタイルの変更が必要になることも多く、適切なサポート体制が重要です。

家族向けのサポートプログラムには以下のような内容が含まれます:

  • ケトン食の基礎知識と調理技術の習得
  • 発作時の対応方法と緊急時の連絡体制
  • 学校や職場との連携方法
  • 心理的ストレスの管理とカウンセリング
  • 同じ境遇の家族との交流機会
  • 経済的支援制度の活用方法
  • 将来設計と社会復帰支援

心理的なサポートも重要な要素です。食事制限による社会的な制約や、治療効果への不安など、様々なストレスが生じる可能性があります。定期的なカウンセリングや患者会への参加により、これらの問題に対処していきます。

社会復帰については、学校や職場での理解促進が重要です。教育機関や雇用主に対する啓発活動、合理的配慮の提供、段階的な社会参加の支援などが必要となります。


てんかんにおける糖質制限療法は、科学的根拠に基づいた有効な治療選択肢です。適切な医療指導のもとで実施すれば、多くの患者さんで発作の改善が期待できます。ただし、エビデンスの確実性は低い~非常に低いとされており、個人差があり、副作用のリスクもあるため、必ず医療機関と連携しながら進めることが重要です。

特にGLUT1異常症においてはケトン食療法が第一選択となっており、その他の難治性てんかんにおいても薬剤抵抗性の場合の重要な治療選択肢となっています。腸内細菌叢への影響という新たなメカニズムの発見により、今後さらなる治療法の発展が期待されます。

この記事が、てんかん患者さんやそのご家族、医療関係者の皆様にとって有益な情報となれば幸いです。糖質制限療法は決して簡単な道のりではありませんが、適切な指導と継続的な努力により、より良い生活を実現することができるのです…!

参考文献・引用元

  • 日本小児神経学会「Q13:てんかんのケトン食療法について教えて下さい」
  • 岡山大学病院てんかんセンター「ケトン食はなぜ効くの?」
  • 静岡てんかん・神経医療センター「修正アトキンス食療法とはどのような治療法ですか?」
  • 日本小児神経学会雑誌「ケトン食療法の有効性と課題」
  • Cell誌「The gut microbiota mediates the anti-seizure effects of ketogenic diet」
  • 大阪大学 萩原圭祐先生「癌ケトン食療法の現状と課題」
  • 日本小児歯科学会雑誌「てんかんの食事療法が小児の口腔健康状態に及ぼす影響の検討」
  • 国立精神・神経医療研究センター「てんかんの食事療法『ケトン食』」
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